前説
我が国には「長距離自然歩道」というものがある。これは「四季を通じて手軽に、楽しく、安全に自らの足で歩くことを通じて、豊かな自然や歴史・文化とふれあい、心身ともにリフレッシュし、自然保護に対する理解を深めることを目的とした歩道」を昭和45年より環境省が計画し、都道府県が整備、管理している。以来、沖縄県を除いた日本全国に10ブロック、1282コースが設定され、その延長は2万7千キロメートルにもおよぶ(H29.3現在)。
東京神奈川においては、主として首都圏自然歩道(通称:関東ふれあいの道)が設定されており、我々道路趣味者が山間部の点線県道を踏破する際、県道に重なっていることも多いため、意外と馴染みが深い。
今回の調査対象は神奈川県のトップナンバーになっている「三浦・岩礁のみち」で、三浦半島の南端、松輪バス停から剱崎、江奈湾、毘沙門天、盗人狩を経由して宮川町バス停に至る10.3kmがコースとして設定されている。
このコースの原形である「三浦半島<剣崎>・渚コース」が三浦市によって作られたのは昭和42年と古く、関東ふれあいの道の最古参なのかと思いきや、同道に編入されたのは平成元年と案外最近である。
昭和42年に作られた当時は現在よりも海岸沿いを歩く距離が長く、下の地図のとおり、小浜から間口漁港、宮川湾から通り矢の区間を含んだ全長13kmのコースとなっていた。
これら点線の区間は維持が追いつかず、荒廃が進んだため、関東ふれあいの道に編入された際にコースから除外されている。
今回は現地調査をするうえで潮位について考える必要があった。
三浦市・岩礁のみちガイドマップより転載のうえ追記
というのも、名前が示すとおり、この道はひたすら海沿いの岩場を歩くコースであり、現道においても満潮や高潮で通行できないことがあるという(参考)。
そこで気象庁が発表している「潮位表 油壺」を確認し、大潮かつ日中に干潮となる5月8日(11:40に-8cm)を調査日に決定した。
本編
調査日:2016.5.8
9:17
現在地:神奈川県三浦市南下浦町金田
今回は経路の都合上、三崎方面からバスに乗ってきた。
「小浜」というバス停で降りると目の前に旧遊歩道入口がある。県道から海沿いに分かれるのがそれである。
遊歩道横に建っている家一軒を過ぎたところにパーキングエリアにあるようなゲートがあり、その横に遊歩道の存在を示唆する看板が立てられている。
道は一応アスファルトで舗装されているが、窪みができていたり、ガードレールが宙吊りになっていたりと管理状況は思わしくない。
入口から400mほど進むと前方に建造物が見えてくるが、これは三浦市が運営する東部浄化センターという下水処理場で平成10年より稼働している。
この付近から雨崎と呼ばれる一帯となる。
浄化センターを建設するにあたり、平成一桁の頃にこの付近の埋立が行われている。
本来の海岸線跡が山側に残っているが、深い藪に覆われており、完璧なトレースを行うのであれば骨の折れる作業が必要となる。
浄化センターを抜けて、少し歩くと雨崎海岸に出る。
一昔前までこの付近に謎の機械が埋まっており、掘り起こしてみたら旧日本軍の九七式中戦車だったという話を聞いたことがある。
海岸の突き当りに雨崎海蝕洞穴という洞穴があり、その手前には飛び石らしきものが設置されている。今日、初めて目にする遊歩道らしい構造物である。
ちなみにこの洞穴、弥生時代には住居として使われていたのだとか。
飛び石は全部で8つあったようだが、うち半数は既に行方不明になっている。交互に無くなっていたなら跳び歩きもできただろうが、連続で無くなっているため、強制的に地上に降ろされる。
また、「歯茎」の部分に水が残っていることからも、条件次第ではこの場所が海面になることが分かる。その場合、足を犠牲にして進むか、大人しく引き返すかの2択を迫られる(奥の手として洞穴を通るルートがある)。
潮が引いていたとしても、目の前の平場との間に意外と高低差があるため、登れないとさようなら(奥の手として以下略)。
平場に登ると右に曲がる風化した階段があり、その先に人ひとり分の歩道が続いている。
通り抜けた先から振り返って撮影。昭和の遊歩道らしい荒々しい造りになっている。
恐らく現代の親子は休日にここを歩こうとは思わないだろう。いるとすれば、それはオブローダー一家である。
進行方向に目を向けると2mほど降りてまた登るという激しいコースになっているのだが、何より登り返す際、岩場にロープが設置されている!
遊具じゃあるまいし…
しかし、頑張って登ったところでこの先に路盤は現存しない。あるのは崖に張られたロープのみだ。
これを使って綱渡りでもしろというのか。
適当に岩場を歩いて進むと再び砂浜に出る。
現在地は名称不明の海岸と遠津浜海岸を500m程進んだところ。ここを越えれば大浦海岸のはず。
手前の階段の先は侵食によって路盤が消失している。
崖っぷちの道が続く。
10:33
大浦海岸に抜けた。雨崎方面へは落石注意の看板とともに柵が設置されている。
現状、大浦海岸から先も廃道となっているが、構造物の状態は比較的良い。
なで肩になっている歩道。
渡り石が1つ欠けている箇所。簡単に飛び越えることができるが、着地時に渡り石が倒壊したらと思うと気持ち悪い。
橋を架けていたであろう窪みがあるが、肝心の橋は流失してしまっている。手前でひっくり返っているコンクリートが件の橋であろう。
ここを越えるとまもなく間口漁港に着く。
ここまで釣り人やキャンパーこそいたが、ハイカーはいなかったな。
(後編へ)
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