茨城県道249号山方水府線交通不能区間(後編)

【前編】【後編】


さて、後編である。
後編は沢から離れ山を登ったところから始める。

前回最後の地点から100mほど登ったところで林道に出た。
画像は進行方向である西側を向いて撮っている。幅は3.5mほどで砂利敷かれている。林道のようだ。

こちらは今登ってきた道を写したもの。
崩落などはなかったが、蜘蛛の巣があちこちに張られいるのが鬱陶しかった。
ちなみにこの林道、地形図では東方向にあと200mほど続いているが、踏み跡は一層薄くなっているように見えた。

しばらく歩くと軽トラ幅の轍が現れるが、この道にも大量の蜘蛛の巣があり、落ちていた木の棒で払い除けながら進んでいる。
最後に人が通ったのはいつなんだろうか。

500mほど進むと前方に別の道が見えてきた。

交差点のところに今歩いてきた林道の銘板があった。
割石林道というらしい。割石というのはこの辺りの地区名でもある。

振り返って歩いてきた林道を見る。
ハイキングコースの卒塔婆が示していた鷹取場に行くならば、交差点を右折。私の立っている方向に進む必要がある。左折をするとおかめ山という山に行くことができる。
私はここを左折する。

少し進むと視界が開けた。
ここはこの道の鞍部になっており、下り基調だった道はここから上りに変わる。

右手側を覗き込むと山の切れ間から県道33号沿いの集落が見える。

左手側には分岐していく道がある。
裏付けは取っていなかったものの、今歩いている道を進めばどこかに地形図に描かれていない地割地区に下っていく道があると踏んでいたので予想が当たった形だ。
軽トラ1台がギリギリ通れそうな幅で実際に視界の先に轍はあるものの、道の入口には土が盛り上がっており、今の状態のまま車が入れるかは微妙なところである。

緩やかに下りつつ沢を回り込む地点に来たところで車道がなくなった。
代わりに人用の丸太橋が架けられている。

丸太橋を渡った先で東を向いて撮影した。
地形図にはここから沢筋を進む徒歩道が描かれているが、ご覧のとおり藪道である。
ピンクテープが何箇所かに貼られていたので歩いている人はいるのだろうが、右岸側に作業道があるので敢えて踏み込む必要性は感じない。

8:40

地割地区に下りるための峠に着いた。
踏み跡が見当たらないので適当な斜面を登る。

これが地割地区に下りる道か。
人一人が通れるような道である。

ちなみに地形図には沢を直登するような徒歩道が描かれているが、現地は等高線が示すとおり急斜面であり、そのような道は見当たらない。

実際の道は5〜6段の九十九折になっている。

最後の十数mは竹藪になっており、それを掻き分けながら進むと明確に人の手が入っている道に出た。

来た道を振り返る。
ネットまで張られているところを見ると竹藪はわざと放置されていたのかもしれない。
部外者に立ち入って欲しくない雰囲気を感じた。

画像はこれから進む道の反対方向を撮影したもの。
集落の真後ろまで切り立った地形であることが伺える。
ちなみに戦前の地形図にはこの道の先から、私が通った1つ南側の峠を越えて天下野に下りる道が描かれているが、現在は民家の畑に突き当たっており、当時の道は消失しているように見えた(完全に私有地然としており踏み入って隈なく調べることは憚られた)。

山の斜面に家が建っている。

道はここからコンクリートで舗装されている。
郵政カブが通りそうな雰囲気だがどうだろう。
地割集落とは言うが、家々はバラけており密集した集落ではない。
よって視界の先に集落が広がっているような光景もない。

眼下に県道249号の車道区間が見えた。
道は車道めがけて下っていく。

09:08
車道に合流。
法面保護工の上に道が付いており、そこを下ってきた。
予備知識が無いとこの先に道があるとは思えないかもしれない。

現地調査の総括として、本県道の交通不能区間はハイキングコース、林道、作業道を使うことで連絡できることを確認した。
ハイキングコース区間については、降雨時等の増水により通行できなくなるおそれがあり、そういった原始的な道を歩けたことは楽しかった。
道路台帳上どのような経路となっているかは興味が惹かれるところで、地形ガン無視で道無き道が引かれているのか、ある程度現地の状態と一致しているのか機会があれば土木事務所で確認したいものである(告示にあった最小幅員2.8mは嘘だと思う)。



机上調査


簡単ではあるが机上調査である。
茨城県の場合、道の認定状況の変遷ついては、Wikipediaがやけに充実しているのでそちらを参照してもらうとして(完成度の高い個人の研究サイトがあること、県自体が明治時代からの公報をインターネットで公表しており情報にアクセスしやすいことが理由だろう)、ここでは現在の県道249号を取り巻く状況について記す。

まずは茨城県議会の議事録から平成12年予算特別委員会において、本県道の整備について話題になっている。
引用文内の下線は筆者による。
◯佐川委員 ~前略~ それから,交通不能の解消ですけれども,折橋山方線,私の家の前から山方の西野内というところまでの道路なんですが,今度,それが名称が変わって水府山方線ということになったわけですね。それは交通不能で30年近くも陳情を繰り返しているわけです。それで,三村先生が丈夫なころ,2人で要望して,三千五,六百万円予算をつけて工事をやったんですね。あそこは破砕帯というんですか,上から岩盤が落ちてきてしまってだめだということで,今度は法線を変えるということで変えたが,その法線は,これの9ページにありますが,16年度まで 290メートル,幅員が5メートル。幅員が5メートルの県道は,全くこれは困ることだし,強い言葉で言いますと,5メートルの県道なんてばかにするなと,こういうのを言いたくなるわけだがね。これは新しい法線を少しずつ, 200メートルくらいずつやっていますが,そうすると,あと20年かかっても終えないんだわね。ですから,これもよく見ていただいて。私は,川端康成の伊豆の踊り子で有名な天城,あそこがループ橋でやっていますよね,上がっておりる。それと瀬戸内のかけた3大橋,あれはみんなループ橋で上がっているわけだ。だから,あそこを西野内から破砕帯のところを工事をしないでループ橋をかけて水府村へ出るというようなことはどうなんだろうという話は10年くらい前から言っているわけです。~後略~
山を削って道を作るには向いていない地質のようだ。
そのうえで佐川委員の改良の進捗が遅い、改良しても幅員5mではしようがない、山を越えるループ橋を作ってはどうかという問い。
対する土木部長の答弁。
◯島田土木部長 県道山方水府線の整備についてでございますが,御指摘のように,水府村と山方町の境界付近は,急峻な山岳部で地名にも地割とあるように地滑り地帯でございます。この交通不能を解消するためには,地滑り対策を含めて,まず安全な走行を確保できるルートを選定しないといけません。それから,やはり切り土や盛り土工事など大幅な工事になりますので,その施工方法の検討,それから地滑り地帯でありますので,完成後の交通安全対策などさまざまな技術的課題がございます。
 また,委員御提案のループ橋につきましても,現地は,地形が大変急峻ですので,かなり大規模な構造物になることが予想され,それに要する膨大な費用や地滑り地帯における実現の可能性などの課題があり,慎重に検討する必要があると考えております。
 このため,今後は,地形図に基づき,より安全なルートの検討を進めるとともに,地滑り防止対策やその施工方法,それからループ橋を初め山岳部の道路構造についての全国的な事例などについても調査研究を進めてまいりたいと考えております。
ループ橋含めて今後も色々と検討してみますというお決まりの回答である。
翌年の平成13年予算特別委員会においても、同じく佐川委員がループ橋を推しているのだが、新たな情報として「地割」のまたの名を「赤岩」と呼ぶことが触れられている。
それ以降、県議会では県道249号の交通不能区間解消に向けた話題があがったことはないようだ。

続いて平成20年6月常陸太田市議会における議員の質問と建設部長の回答について見てみよう。
○12番(菊池伸也君) 12番菊池伸也であります。ただいま議長から発言の許可をいただきましたので,通告順に質問をいたします。~中略~
 次に,県道249号,山方水府線整備事業廃止による地権者との約束についてであります。
 第5次総合計画実施計画の「安らぎのある快適環境」第2項道路の整備の中に,国県道の整備促進ということで,国道293号を初め,国道349号,国道461号,県道日立笠間線,県道常陸那珂港山方線等が事業計画に挙げられ,着々と進められております。
 今回タイトルに挙げました県道249号山方水府線は,既に茨城県の道路地図では十数年前から示されております。現在も天下野町3区地内を通る県道33号線,常陸太田大子線に接続されております天下野町3区地内寺入から常陸大宮市諸沢地区に通じる県道整備事業でありますが,一向に進まないことから,かつて幻の県道と言われ続けたことがあります。完成すればかなりさまざまなことで利便性の高い県道になったことと思われますが,平成16年に県からの要望で,山方と水府を遮る山の地質が非常に工事の進みにくい地質であること,また,県の財政上の事情等も含め,長い間検討されてきましたが,この事業を取りやめたいとの意向を示されたのを酌みまして,旧水府村では地元住民と地権者に説明会を開き,途中まで整備されている道路を民家のある場所,現在の砂防ダムの付近まででありますが,整備をしていただくことを条件に,事業の中止に賛同されたと記憶しております。そして,残された部分の整備を完成した上で,県側から市へ移管をするということになっておりましたが,その後何の音さたもなく,住民は困惑をしております。
 そこでお聞きいたします。本件に対して,現在の状況はどうなっているのかお伺いをいたします。また,住民に対して約束されたことに対しては今後どのように進められていくのか,あわせてお聞きいたします。~後略~

○建設部長(富田広美君)  県道山方水府線整備事業廃止による地権者との約束について,お答え申し上げます。
 県道山方水府線は,旧山方町から旧金砂郷町を経由し,旧水府村までの延長約7.6キロメートルを整備する計画でございました。しかし,県において現地を詳細に調査した結果,ルートに当たる西金砂神社北側付近一帯が地すべり地帯で,さらに地形が急峻なため,道路整備計画の見直しを行い,これにより,旧水府村においては,天下野町の集落内約750メートルを整備し,その先線の事業を中止することで地元の承諾が得られているところでございます。
 議員ご指摘のとおり,県道入口から約450メートル区間は整備されましたが,残り約300メートルが未整備となっておりますことから,県に確認いたしましたところ,本年度現地調査の上,段階的に工事を進めていく予定と伺ってございます。
 市といたしましても,事業中止の条件として県が地元に約束しました残り区間の整備の早期完成を要望してまいります。なお,整備完了後は県から移管を受け,市道として管理していくこととなります。
終了のお知らせ。と言ったところだろうか。既に県は県道の山越えを諦めていた。
平成16年に地元に整備中止の意向を伝え、地元は民家のある部分まで整備することを条件に了承。建設部長の言う450m区間の末端はここここで、残りの300m区間というのはここここのことだろう。
そして、整備完了の暁には市道に移管する取り決めもなされている。

この時の市議会では平成16年のやり取りの後、残区間の整備に何の音沙汰もないため議題に上がったようだが、それから12年が経過した令和2年現在でも整備が完了していないのは、予算の問題か土地の問題か。
天下野町内の道を県道から除外すると別のルートを区域決定しない限り必然的に終点が常陸大宮市内に変わる訳で、路線名も変更になるだろうからその辺りの事務手続きを嫌っているのだろうか。

いずれにせよ、この県道の交通不能区間の解消はバイパスの開通というめでたい形によるものではなく、整備計画の廃止という形でされることになったのだ。

(完結)



変更履歴

2020.9.26 公開

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